では、法人の人権享有主体性についての判例を2つほどご紹介いたします。
どの判例もとても有名ですのできっちりとおさえてしまってください。
南九州税理士会の政治献金事件(最判平8年3月19日)
【事案】
強制加入団体である税理士会が、税理士法を税理士業界に有利なものにするため、その資金として会員の税理士から特別会費を徴収た上、それを政治連盟に寄付しました。それに対して怒った会員が、その行為は会員の思想・良心の自由を侵害し、税理士会の目的の範囲外の行為なのではないかとして訴えを起こしたというものです。
【判決要旨】
「税理士会が政党など政治資金規正法上の政治団体に金員を寄付することは、たとい税理士に係る法令の制定改廃に関する政治的要求を実現するものであっても、 税理士法49条2項で定められた税理士会の目的の範囲外の行為であり、右寄付をするために会員から特別会費を徴収する旨の決議は無効であると解すべきである。
会社における目的の範囲内の行為とは、定款に明示された目的自体に限局されるものではなく、その目的を遂行する上に直接又は間接に必要な行為であればすべてこれに包含される。
税理士会は、会社とはその法的性格を異にする法人であって、その目的の範囲については会社と同一に論じることはできない〜法があらかじめ、税理士にその設立を義務付け、その結果設立された〜強制加入団体であって、その会員には、実質的には脱退の自由が保障されていない。
その目的の範囲を判断するに当たっては、会員の思想・信条の自由との関係で、会員に要請される協力義務も、おのずから限界がある。
特に、政党など規制法上の政治団体に対して金員の寄付をするかどうかは、選挙における投票の自由と表裏を成すものとして〜個人的な政治的思想、見解、判断等に基づいて自主的に決定すべき事柄である。」
群馬県司法書士会の震災寄付事件(最判平14年4月25日)
【事案】
群馬県司法書士会が阪神淡路大震災によって被災した兵庫県司法書士会に対して復興支援拠出金(3000万円)を寄付するために、会員から特別負担金を徴収することを決議しました。これに対して会員がその行為は司法書士会の目的の範囲外の行為であるとして訴えを起こしました。
【判決要旨】
「本件拠出金は,被災した兵庫県司法書士会及び同会所属の司法書士の個人的ないし物理的被害に対する直接的な金銭補てん又は見舞金という趣旨のものではなく,被災者の相談活動等を行う同司法書士会ないしこれに従事する司法書士への経済的支援を通じて司法書士の業務の円滑な遂行による公的機能の回復に資することを目的とする趣旨のものであったというのである。
司法書士会は,司法書士の品位を保持し,その業務の改善進歩を図るため,会員の指導及び連絡に関する事務を行うことを目的とするものであるが(司法書士法14条2項),その目的を遂行する上で直接又は間接に必要な範囲で,他の司法書士会との間で業務その他について提携,協力,援助等をすることもその活動範囲に含まれるというべきである。そして,3000万円という本件拠出金の額については,それがやや多額にすぎるのではないかという見方があり得るとしても,阪神・淡路大震災が甚大な被害を生じさせた大災害であり,早急な支援を行う必要があったことなどの事情を考慮すると,その金額の大きさをもって直ちに本件拠出金の寄付が被上告人の目的の範囲を逸脱するものとまでいうことはできない。したがって,兵庫県司法書士会に本件拠出金を寄付することは,被上告人の権利能力の範囲内にあるというべきである。
そうすると,被上告人は,本件拠出金の調達方法についても,それが公序良俗に反するなど会員の協力義務を否定すべき特段の事情がある場合を除き,多数決原理に基づき自ら決定することができるものというべきである。これを本件についてみると,被上告人がいわゆる強制加入団体であること(同法19条)を考慮しても,本件負担金の徴収は,会員の政治的又は宗教的立場や思想信条の自由を害するものではない。」
それぞれ似たような事案ですが、結論が異なっていますね。
南九州税理士会事件では、法人の目的の範囲外。思想信条の自由の侵害になる。
群馬司法書士会事件では、法人の目的の範囲内。思想信条の自由の侵害にはならない。
内容と結論をきっちり抑えてしまいましょう。
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